マリコラム

2015年03月24日(火)

お客様は「人間」です。

職場近くにある眺めのいいカフェ

職場近くにある眺めのいいカフェ

 

 

あれは、蒸し暑い東京の夏の昼下がり、
東京の大学に通っていた弟と私は、実家から届くはずの宅急便を待っていた。
実家からの食材が詰まった段ボール箱を、ひたすら待っていた。
今日の2時に到着と指定してある、と母から聞いてある。
なのに、2時を過ぎても、2時半になっても
宅急便はこない。

 

シビレを切らした弟が、ついに行動に出た。
宅急便の会社に電話したのだ。
学生でも客は客。
最後は、責任者まで電話口に出てきて弁明と謝罪。


その後到着した宅配担当者も平謝りで、食材到着の喜びと同時に、
父親ほどの年配の担当者が何度も頭を下げる姿に、
社会人の厳しさも実感した一件だった。
明日は我が身……
自分たちも社会人になったら、謝る側になるのかと思うと少し気が滅入った。

 

 

 

そんなセピア色どころか、モノクロの思い出がよぎったのは、
なぜかゴールドコースト空港のチェックインカウンターだった。

 

 

メルボルンからそこで日本行きに乗り換える予定だったが、
悪天候で足止めを食っていた。

 

私たちの前後の、それぞれ30メートルくらいの行列を、
たった3人のスタッフが対応にあたっていた。
このままでは絶対に間に合わない。
焦りと苛立ちがあたりに充満している。

 

こんなとき、オーストラリア人のおおらかさをうらやましく思う。
周囲の空気に飲み込まれて不満でいっぱいになった私は
隣でのんきにイヤホーンをして音楽にご満悦の相棒をにらんでみる。

 

日本だったら絶対こんなひどい対応はないな。
乗り換えで疲れてる客を行列して待たせるなんて。
オーストラリアだと、対応が悪いのが当たり前だから
みんな期待もしてなくて、慣れてるのね。

 

と、ひねくれたことを考えながら1時間くらい経って、
やっと我々の番も近づいてきた。

 

ひとつ前の客はアメリカ人のお金持ち風の夫婦だった。

 

「一体どうなってるの!こんなに待たせて!
予定通りに到着しなかった場合の、ホテルやツアーのキャンセル料はきっちり払ってくれるんでしょうね!」

 

と、すごい剣幕の怒鳴り声が聞こえた。
ひとつ前とはいえ、私たちは3メートルくらい後ろに立ってるわけで、
目の前で聞かされてたら、きっと耳をふさいだと思う。

 

その後、かなりの間やりとりが交わされた後、
その夫婦はプンプンしながら、
指定された2つのバスの1つに向かっていった。

 

 

やっと我々の番がきた。
そのアメリカ人夫妻の怒鳴り声に驚いてしまって、
いろいろ用意していた言葉を失っていた私のかわりに、
連れのオーストラリア人がフレンドリーに話し出した。

 

 

「大変だね。大丈夫? 君たちのせいじゃ全くないのに、困ったもんだね。
だいいち、飛行機が飛ばせないのは客の安全のためなのに。
本当、同情するよ。疲れてると思うけど頑張って」

 

そのとき、疲労困憊(こんぱい)気味の地上スタッフに初めて笑顔が戻った。

 

「ありがとう。本当にそうなのよね。おかげで少し疲れが取れたわ。
今日は残念ながら飛行機は飛ばせないのよ。その代わりホテルを用意してて、
あそこに2台のバスがとまってるでしょ。 あの右側に乗ってね。
前の客が乗ったほうじゃないほうのバスね! いい部屋を案内しておくわ」

 

と小さくウィンクされて、我々は思いがけず、
空港からすぐ近くの高級ホテルの最上階の一室で、優雅に台風の通過を待った。

 

あきらかに、2台のバスの行き先のホテルには、
そのレベルも、空港からの距離にも、格差があったようだ。
そして、あのスタッフがそれを振り分けていたわけだ。

 

オーストラリア人は、ただのんきなわけじゃなかった。
ベストなカスタマーサービスを得る方法を知っていたのだ。
それは「サービスする側と友達になる」ことだった。

 

あそこで、「責任者は誰だ!責任者を出せ!客をなんだと思ってるんだ!」
と叫んでも、オーストラリアではまず通用しないだろう。
おそらく返ってくる言葉は、
「責任者? 誰もいません。天候のせいですから」
「お客様? お客様は人間でしょ?」

 

 

そう、客も働く側も、お互い人間なんだから、
優しくされたら、嬉しいし、それに応えたいと思うだろう。
辛くあたられたら、悔しいし、助けたいという気持ちも失せるだろう。
それは人間として当然の感情だ。
それを無視して、立場ばかりを主張すると
どこかで歪み(ひずみ)が生まれる。

 

 

日本ではカスタマーサービスがいいから、逆に海外に出ると疲れる。
と言う声をよく聞く。


確かに日本のホスピタリティは最高級だと帰国するたびに思う。


でも、客の立場を乱用するのはよくない。

そういう「神様」な客が、
日本のホスピタリティのレベルを下げてしまうかもしれない。

 

おもてなしの精神は、自然に湧き出る感情で、
無理して引き出せるものではないのだから。

 


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投稿日時:2015年03月24日(火)10:49 AM

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