マリコラム

2012年03月23日(金)

ビザの重み

 

 

 ロンドンの郊外にあるビジネス学校に通っていた頃、ランチタイムのカフェテリアに学生たちが集まると、よく話題になるのがビザのこと。

 

「あの子、ビジネスビザの申請したんだって」「学生ビザの延長をしようと思うけど、もう3回目だからだめかも」「あそこの移民局はすごく厳しいらしい」
……できれば少しでも長く海外にいたい。でも期限は後数ヶ月。どうやったら延長できるか?あの手この手を学生間で情報交換する場面は、キャンパスのあちこちにあった。在留が長い人には羨望の眼差し。「いったい何のビザ取ったんだろうね~」「お金持ちなんだろうけど」

 

―――母国が嫌いでもないけれど、やっぱり海外で自由な学生の身分っていうのは捨てがたい。ほとんどの学生がそう思っていた。勉強がそこまで好きでもないけどね。まだ就職するのもやだし。時間稼ぎをしたい子も多かった。

 

そんな中、ロダと会った。アフリカのルワンダ出身の彼女は、普段はとてもシャイなのに、授業中は誰よりも必死で質問していた。先生から英語の発音をよく直されながらも、全然ひるまなかった。頑張るねって声をかけたら、「いま失業中で、一刻も早くいい仕事が必要だからね」と黒光りする肌から真っ白な歯をみせて笑った。

 

 私と同い年の彼女は16歳で母になり、すでに3人の子持ちだった。イタリアでスチュワーデスをしていた時に恋に落ち、結婚。夫婦で祖国ルワンダに旅行会社を設立する夢を胸に帰国中、ルワンダの民族紛争が勃発。目の前で夫の体が爆弾に弾け跳んだ。それでも幼い子の手を引き、必死で戦火をただ走りぬくしかなかったという。なんとか生き延びて、イギリスで「難民ビザ」を取得。母子4人でロンドン生活3年目を迎えた。

 

 彼女には、物価高のロンドンをどうやって賢く生き抜くか、たくさんのことを教わった。安くて新鮮なものを売っている店、上手な値切り方、なんでも知っていた。単に時間稼ぎとかで海外に居座ろうとしている学生たちとは、勉強の姿勢も生きる姿勢も違うわけだ。子供3人の人生も背負っている。

 

「この難民ビザがいつか切れたとき、私たちには帰る家がないから、いましっかり勉強して、いい仕事を見つけて、スキルを身につけないとね。悲しんだり泣いてる暇があったら勉強しようって決めたの」そう明るく言って笑った彼女は、ビザの本当の重みを知ってる一人に違いない。

 

 

 

下からマリコラム解説: イギリスもそうですが、オーストラリアはさらに多国籍国家で、いろんな国出身の人たちが住んでいます。難民ビザもたくさん発給してきました。ベトナム戦争のときにたくさんのベトナム人に、天安門事件のときにたくさんの中国人にビザを発給しました。祖国で生きるのが危険、という非常時に人道的援助として発給されるビザですが、オーストラリアではなんと、年間1万人以上の難民を受け入れています。日本人は恵まれていて、経済的にも政治的にも難民ビザの資格はありません。それでも日本から移住してくる人を、ある社会学者が“精神的難民”と呼んでいましたね。私もその一人でしょうか(笑) 
でも今回の災害で、祖国に住むのが危険という状況が他人事とは思えなくなったもの事実ですね。日本も昨年は30人ほどの受け入れをしたそうです。10年前は確かひとケタでした。1万にはまだ遠いけど、少しずつ前進しています。いつか日本だって他の国にお願いしないといけない日が来るかもしれません。
        でも、生まれた場所を永遠に離れたいと思ってる人なんて、本当にいるでしょうか。


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投稿日時:2012年03月23日(金)8:07 AM

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