マリコラム

2014年11月25日(火)

言葉の壁より厚い壁

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英語がペラペラに話せたら、

世界中を旅しながら友達を作って、

そのうち恋人なんかもできたりして、

ゆくすえは国際結婚!?

 

なんて夢見て海外を目指す若者は多いだろう。

でも、海外にでたらブチ当たる、

言葉の壁よりも厚い壁がある。

 

この私も何度もブチ当たった。

最初は流血する痛さだったが、

さすがにもう慣れた。

 

さあ、どんな壁でしょう?

では初期の“壁体験”を一つ。

 

15年前にイギリスに渡った私は、

まず現地の生活に慣れるため、ホームスティを始めた。

 

ホームスティ先には、私のほかに、

18歳のスイス人の女の子、アンドレアがいた。

さて、初めての夕飯におめみえしたのが、

ホストマザーの試作品という野菜の煮物。

私たち留学生のために、おいしく栄養がとれるように工夫してくれた、

というのだが、残念ながらお世辞にもおいしいとはいえず、

感想の言葉に困ってるときに、隣のアンドレアが

「これ、好きじゃない」と顔をしかめて言い放った。

その場の気まずさを打ち払おうと、とっさに私は

「おいしい!」と言ってしまった。

 

その日から、私たちの夕飯の明暗が分かれた。

 

その煮物の変わりに、アンドレアには好物のフルーツサラダ。

私にはさらに大盛りの煮物。

「アンドレアが食べれないから、あなたは2倍食べていいのよ」

と優しい笑顔で言われてしまっては、

「私もフルーツのほうがいい!」とはどうしても言えなかった。

 

ホストマザーは意地悪してるわけじゃなく、

私の好物と信じて、喜んで作ってくれているのだ。

アンドレアは正直に好きじゃないといい、

自分が本当に好きなものを食べる権利を得た。

それによって、万一ホストマザーがちょっと気を悪くしたとしても、

それはほんの一瞬で、二人の関係に影を落としたとは思えない。

その証拠に、以後も両者は楽しそうに一緒に夕飯を食べている。

私だけが、好きでもない煮物を

無理して食べながら、笑顔を作っている。

あの時、「私もこの煮物好きじゃない」と言えなかった代償だ。

相手を傷つけないためとはいえ、ウソをついた自分が悪い。

 

この憂鬱(ゆううつ)を晴らすには、

やっぱり私も正直になるしかない。

よし、今度こそ勇気を出して伝えてみよう。

 

「あなたの煮物、本当は好きじゃなかったけど、

傷つけたくなくて、今まで我慢して食べてきたの。

私も明日からフルーツに変えてもらえるかしら」

 

———いや、やっぱりそんなこと言えない。

 

「じゃあ、あなたは私にずっとウソをついていたの!」

なんて言われちゃったらもうあの家には居られない。

だいいち、そんなこと言える自信も英語力もなかった。

 

今となるとまるで笑い話だが、

当時は深刻だった。

 

新しい世界にうまくなじもうと、周りとうまくやっていこうと

張り切れば張り切るほど、なんだか空回り。

あげくに、「うそつき」「何を考えてるのか不明」のレッテルを貼られ自信喪失。

自分は海外には向いていない、と貝になってしまう。

 

そんな経験をした日本人は結構多い気がする。

 

私たち日本人は、他人を押しのけてまで自分の意見を通す、

という教育を受けていないのだ。

 

では西洋では、他人を押しのけてかというと、

それもちょっと違う。

Honesty is the best policy. (正直なのが一番の政策)

ということわざがあるように、正直であることがとても重視される文化だ。

 

日本では「本音と建前」を使い分ける。

時には「ウソも方便」でかわす。

 

しかしそんな、相手のことを思いやってとった行動でも、

ちょっと間違えると「dishonesty」(不誠実)と思われてしまう。

 

頭では分かっていても、

日本人としての言動はそんなに簡単に変えられない。

「相手への思いやり」は大切だ。

 

逆に自分が一生懸命作った料理を、

「これ好きじゃない」と言われるとショックだ。

日本ではあまりハッキリ否定された経験がないだけに、

免疫がついてないのかもしれない。

 

なにもそんなにハッキリ言わなくても、

せめて「今日は食欲なくて」とか言えないのか。

と思うけど、それはウソだからポリシーに反するのだろう。

 

正直に好きじゃないのだ。相手の好みを受け入れろ!

別の料理で挑戦しろ!

と自分に渇(カツ)をいれても、

でもまた拒絶されたら? もう私の料理は食べたくないのか。

なら何も作らないのが一番じゃないか。

と弱気な自分が邪魔する。

 

でもこれであきらめたら、料理の腕は一生あがらないだろう。

 

「まずい」と思われながら、毎回我慢して食べられるほうが

本当はもっと辛いはずだ。

 

これは単なる例えだが、

料理の好みが合わなかっただけで、

その人全体を否定されたわけではない。

だから本当は落ち込むような話ではない。

そこに感情を持ち込んで大げさにしてるのは、

実は自分だったりする。

 

 

実は、この「壁」について思い出したのも、

最近あるニュースをたまたま聴いたからだった。

 

確かTPP交渉のために、来日したアメリカの通商代表の様子を

記者がラジオニュースで説明していたときだ。

「彼は交渉の席ではものすごい辛辣(しんらつ)な攻撃をしておきながら、

その夜の晩餐会ではすごくニコニコ楽しそうに周囲に話しかけていて、

ちょっと面食ってしまいました。よくあんなに態度がコロッと変えられるな、と」

とコメントしていて、思わず笑ってしまった。

 

そうなのだ。

こっちでは、思ったことはハッキリ言う。「正直」が一番だから。

言うのも慣れてるなら、言われることも慣れている。

だから、その後の切り替えが上手なのだ。

というか、それが普通なのだろう。

言われたこともすぐに受入れ、そしてすぐ流す。

水洗トイレのごとく。

言った後の気まずさとか考えない。

終わったことは終わったこと。

この割り切り方のうまさというか、

後に引かない凛々しさは、尊敬に値する。

「それはそれ、これはこれ」という線がしっかり引かれてるのだ。

 

 

思ってることをブツケ合って大ゲンカしたと思ったら、

その直後に仲良く一緒に出かけていく。

 

という場面に、海外ではよく出くわす。

 

それは自分の正直な思いをぶつけて、それでスッキリしているのだ。

だから、言い過ぎた後の言い訳、

“Don't take it personally.”という英語の言い回しは、

日本語訳の「個人的にとったらダメよ!」よりも

断然定着しているように思う。

 

自分は正直な思いをすべて吐き出した、

何も隠してはいない。さあ、今度はあなたの番よ。

という場面で、

こちらも思いのすべてを吐き出せたら、

最後に大きなハグをして仲直り、となるだろう。

そこから真の関係を築いていける可能性は高い。

 

一方、キツイことをはっきり言われて、

それに落ち込んで何も言い返せなかった場合、

こちらは正直に胸の内を話したのに、

それに対して何も言ってくれないなんて、アンフェアじゃないか、

とはっきり言った側は思うだろう。

 

言われた側からしてみれば、

言いたい放題言っておいて、こちらが言い返さないと怒ってる、

どうしてこちらばかり嫌な思いをしないといけないのか、

と被害者意識に陥ってしまう。

 

これでは両者の心の溝は深まるばかり。

 

国民性の違い、性格の違い、といえばそれまでで、

どちらが良い悪いという議論はさておき、

この壁は、日本人が海外に出るときに必ずといっていいほど

待ち受けている。

 

いや、これは海外に限ったことではない。

海外だと顕著だが、日本にいても同じようなことはあるだろう。

 

でも考えてみれば、

自分の正直な気持ちをはっきり言えることは悪いことではない。

お互い隠しごとのない関係のほうが、いいに決まっている。

それをどうきちんと伝えるか、

それはコミュニケーション能力が問われることで、

上手な人は、わざわざ傷つけずに伝えることができるのだろう。

 

もっと大切なことは、その次の「切り替え力」だと思う。

 

相手が正直に心を開いて話してくれたことを、

まずは素直に聞ける、という力は大切だ。

いつまでもネチネチ根に持って個人的に恨んだり、

自己卑下して落ち込みっぱなしなんて、時間と精神力の無駄だ。

 

相手の気持ちを汲み取ろうと真剣に耳を傾け、

自分の気持ちを誠実に伝える努力を惜しまない。

そこに、決して悲観や先入観を持ち込まない。

時には、苦言もあるかもしれない。

でもそれは、自分を傷つけるためなのか、

自分の成長や幸せを思ってのことなのか、

落ち込む前に、深呼吸をして考えてみよう。

 

たとえそのときは落ち込んでも、

しっかり「切り替えて」また前を向いて歩いていく。

いつまでも同じところで足踏みしたり、後ろを振り返らない。

 

それこそ、私たちの乗り越えないといけない壁なのかもしれない。

 

でもいったんこの壁を乗り越えてしまうと、

世界はもっともっと住みやすい場所になる。

 

いや、壁を壁と思わなくなるほど、

自分が大きくなっていく。

 


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投稿日時:2014年11月25日(火)9:56 AM

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