マリコラム

2013年10月23日(水)

ディズニーおじいさん

disney hotel

 

その日本行きのフライトは、香港乗り換えの深夜便だった。

「絶対寝る!」と決め込んでたどり着いた席の隣には、

70歳前後と思われる紳士が座っていて、窓側に座る私のために

あわててシートベルトを外して席を立とうとしてくれた。

申し訳なさついでに、彼の胸元で小さく笑うミッキーマウスに目が留まった私は、

「ディズニーランド、行ったんですか?」

と笑顔で聞いてみた。

すると彼は、一瞬驚いたように私の目をじっと見てから言った。

 

「うん、行ったよ。でもこのポロシャツはユーロディズニーで買ったもので、香港ディズニーのじゃない」

 

ちょっと意外な答えが返ってきたので、ついでに聞いてみた。

「じゃあ次は東京ディズニーですか」

 

「もちろん」

と答えた彼の周りを、念のため見回してみても、同行者らしき人は見当たらない。

「ディズニーランドにあなた、一人で行くんですか?!」

私は聞かずにいられなかった。

 

ひとりディズニー!? しかも海外で!? しかもご老人!?(いや、誠に失礼ですが……)

 

 

 

たくさんのはてなマークが頭を渦巻き、

私はどこから質問していいかもわからないほど興奮してきた。

 

そこから延々と続く我々の会話を要約すると、こうだ。

 

彼はイギリス北部の田舎で1人暮らしていて、すでに仕事はリタイヤしている。

年に一度、世界中のディズニーを回る一人旅を慣行している。

イギリスからまずは近場パリのユーロディズニー、そして香港ディズニー、

東京ディズニー、フロリダ、カリフォルニアと世界を一周。

しかも宿泊はいつもディズニーホテルを利用。

1人で行く理由は、一緒に行ける友達を見つけられないのと、

1人のほうが予定がたてやすいから。

(うんうん、確かに同世代のお友達は難しいかもと深く納得)

 

仕事柄、ディズニーマニアの学生にはたくさん会ってきた。

海外のディズニーや、そのホテルで働きたいから、

というのが留学目的の学生もたくさんいたし、

実際にその夢を果たした学生もたくさんいる。

それでも、このイギリス紳士のマニアぶりには、驚きを超えて感動を覚えた。

ヨーロッパではディズニーは「可愛い」すぎてそこまで人気がないため、

ユーロディズニーも東京に比べて入園者数もかなり少ないと聞いていただけに….

 

機内のライトは消えても、読書灯の下でディズニートークは続いた。

去年久しぶりに東京ディズニーランドに行ったとき、

初のディズニーホテルの宿泊を果たした私も、

そのときの体験を必死に話していた。

「宿泊客って、開園15分前に入れるのが嬉しいですよね!」

と息を弾ませ話したところ、

「うん、でもアメリカのディズニーホテルは1時間前なんだよね」

と余裕の笑みでかわされた。

 

「どのローラーコースターが一番好きですか?」

の質問には、しばらく考えた後、

「ユーロディズニーのスペースマウンテンかな」

乗り物自体は同じでも、その土地の地形によって微妙に体感が違うのだそうだ。

すべてのディズニーランドを何度も制覇した人のみぞ知る、貫禄のあるお言葉だ。

 

確かに、ミッキーは世界で唯一の存在(!)でも、

ディズニーランドは位置する国々で違って当然だろう。

地理、気候、だいいち言葉が違う。

そして、何よりもそこで働くキャスト(スタッフ)が違う。

 

話題がそのキャストに移ったとき、

彼はまるで青年にかえったような笑顔で言ったのだ。

「キャストなら、文句なく東京ディズニーがナンバーワン!」と。

 

ちょっと自分をほめられたように錯覚して照れてしまったけれど、

考えてみれば、言葉の壁があるはず。

それを質問したところ、「うん、確かに言葉は通じない」と少し残念そうにうつむいた。

 

「でも、それなのに必死でコミュニケーションを取ろうと頑張ってくれて、

不思議と思ったことが通じるんだ。その心意気がうれしいね。

日本語がまったくわからない私を、最後まであきらめず、しかも笑顔を絶やさず助けてくれる」

と嬉しそうに語り始めた。

 

7年ほど前に英語ができるキャストを見つけて、

その女性が働くレストランを以来行きつけにしているそうだ。

去年行ったら、異動になっていたのだが、

そこのキャストが必死で彼女を探してくれて、無事再会が果たせたそうだ。 

いかにも、ディズニーらしいお話。

ご老人、今回も彼女に会えるのをとても楽しみにしているみたい。

 

 

言葉の壁を超えて、日本のホスピタリティ精神(おもてなし!)は

確実に海外からの訪問者のハートに届いている。

それを目の当たりにしてなんだか感動したのと同時に、

最後に彼が窓から外を眺めながらポツリとつぶやいた言葉、

 

「これで、言葉が通じたらどんなに素晴らしいことか…….」

 

を、今後の宿題の一つとして胸にとどめていこうと誓った。

 

飛行機はまもなく、着陸態勢に入る。

一睡もしなかったのに、機上の空のように心は晴れ渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 


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投稿日時:2013年10月23日(水)1:31 PM

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